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November.2006 part.3

 

 

 

 

  


秋の日だまり麗らかな陽光を浴びて(鵜山七曲)

 

11月11-12日 2006ラストダウンリバー(大井川・鵜山七曲10.37km)

本当なら11月は一年で一番カヌーを楽しむのに適した気候なんだけど、ここのところ山ばかり登ってて川がご無沙汰気味。今度休みが取れたら今年最後になるダウンリバーに出かけようと心に決めていて、クルマの回送に列車が使える大井川を狙っていた。出来れば家族でワイワイと楽しく下りたいところだけど、ともちゃんは鳥取キャラバン以降連日の学校行事で少しお疲れモードだし、Azuは昨日の連合音楽会が終わってちょっとのんびりしたいようなので、今回は『最近ソロでカヌーに乗ってないしなぁ。』と遠い目をしてつぶやく(笑)Masaとふたり旅に出ることにする。

ふたり旅ならば!ってことで今回の行き先をこれまで何度か下った千頭〜駿河徳山ではなく、takabooさんのサイトで何度も紹介されているのを見て絶対に良さげ...というより絶対にイイに違いないと感じる塩郷〜笹間渡の“鵜山七曲り”に決定...今回初めて下るコースである。これまでならある程度の安全性が予め判ってる場合を除き、初めての川を家族連れで下ることはなかったけれど、Masaに関してはもう大丈夫...それどころか僕がひとりで下るよりも彼と2艇で下る方がリスクが軽減されたりするんじゃないかと思うのである。
もちろん社会的にはまだまだ子供で、親父の僕が彼の世話を見てやる必要があることが多いけれど、彼はもう身長167cm。痩せて見えるけど実は体重も60kg近くあって、僕よりも川を読む技術が高くパドリングが上手いのはもちろんのこと、最近ではひとりでカナディアンカヌーを楽々運べるし、社会を離れた野遊びのフィールドにおいて僕が彼の面倒を見てやる必要は全くなくなりつつあるのだ。


初めてのソロダウンリバー2002.7(9歳)

初めてのツアーリーダー2006.11(14歳)

こうなってくると、彼は庇護してやらなければならない弱者ではなく、もはやお互いに頼りに出来る“相棒”。以前よくやった『お父さんだけの...』なカヌーツアーがそれぞれの家庭の事情で実現困難になりつつある今、男だけの気楽な旅をMasaとふたり、前日に思い付いて家庭内で楽しめるヨロコビは何物にも換え難い。さて、そんな“相棒”とのカヌーイング...今回は野遊び道具の使い方など野外生活についてのレクチャーを含め、たぶん来年になればひとりでキャンプを始めるであろう(大峯奥駈道を一週間かけてひとりで踏破する希望があるようだ。現実性はともかく...笑)彼のため、責任ある大人のアウトドアズマンとして知ってるべきアレコレを教えながらの旅にしたいと思っている。Masaを連れているけど“子連れ”ではないダウンリバー...実は初めてのダウンリバーの時のようにワクワクなのである。

そんなわけで、夕方仕事を終えてからダッちゃんにカヌーや必要な道具の積み込みを開始し、夕方から卓球教室に行っているMasaの帰りを待って22:00過ぎに家を出る。
22:00現在、日本列島東部には3つの低気圧が縦一列に並んで東進中。今回も強風が吹き荒れて伊勢湾岸道では非常に恐い思いをしたけど、iPodでMasaの大好きなELLGARDENを聴きつつ、家では出来ない父と息子の男同士の会話を楽しみながら東を目指す。
朝一番にスタート&ゴール地点の下見もしたいので、出来ればその日のうちにスタートポイント入りしたいと思ってたけど、Masaの卓球教室から戻るのが遅れたこともあって、東名高速・小笠PAで日付けが変わり、ここでP泊することになった。(一応クルマを運転するのは午前0時までと決めてるので...)


6:00に目覚めて次の相良牧ノ原ICで東名を下り、左岸沿いに大井川を遡る。まずはゴール予定の川根温泉前の河原を下見し、自分の足で地面の状態をチェックして途中のコンビニで昼食&非常食をゲットし、スタートポイント・塩郷ダム下のくのわきキャンプ場へ。数年前にCasitaを牽いてモーリーやにしび〜、そしてsnowpeak社長のtohruさんとのキャンプを楽しんだ思い出のキャンプ場。あの時はキャンプ場に至る道がすごく狭く感じたけど今日はダッちゃんなので楽々である。7:30くのわきに到着。


くのわきキャンプ場で1時間の風待ちの後...

スタートを決意して準備開始

キャンプ場のゲートをくぐり、すぐに左に折れてキャンプ場の河原側に伸びる未舗装路に入って河原へと進む。クルマを降りると三陸沖の発達した低気圧のせいで典型的な西高東低の気圧配置になって想像通りの強風(涙)。天気予報の『静岡県地方の今日のお天気は晴れ。降水確率0%...但し陸上で13m〜18mの強風が吹くでしょう』が大当たりの状況なのだ。
ストラップをキツく絞ったKAVUのキャップがいとも簡単に飛ばされる瞬間最大で20m/s(推定)の風が吹き付ける河原に立って、実は僕の心は中止する方向で8割方決まる。でも、今回のダウンリバーは全ての判断をMasaに任せると決めていたので、とりあえず強風の中スタートすべきかどうか?をMasaに尋ねてみることにする。


ダウンリバーの準備完了!

風対策に20kgの石ころを積み込むMasa艇

すると...
『時間は充分にあるんだし、一時間だけ様子を見てみようよ。で、ダメだったら登呂遺跡に行こう(笑)』というMasaの言葉。せっかちな僕は状況判断を下すのが早いぶん“待ってみる”という選択肢はこれまであまりなくて、彼の言葉を非常に新鮮に感じた。
クルマの中でガイドブックを眺めながら一時間ほどを過ごしても、風は弱まるどころかさらに強まるばかりだったけど『今は向い風だけど、その先のヘアピンカーブを曲ったら向きが変わるかもしれないし、昭和橋まで漕ぎ出してみようよ。昭和橋まで行けば地名駅から大井川鐵道に乗れるし。その先はまたそこで判断すればいいじゃん。』という彼の判断で9:45くのわきキャンプ場最下流の右岸をスタート。


猛烈なアゲインストの風に向かってスタート!(9:45a.m.)

 

スタート直後はまともな向かい風。相当な流速があるのに少し油断してパドリングの手を休めると上流へと運ばれてしまってる自分に気付く。50mほど進むと風は右斜めからに変わって、ホンマにこれが“越すに越されぬ”大井川?って思える20mほどしかない万水川ほどの川幅と相まって僕らのカヌーはいとも簡単に左岸へと打ち寄せられてしまう。『ワハハハ...シャレになら〜ん!』バカバカしいほどの風に笑うしかない僕らだ。ただ、僕らの影が素晴らしく澄んでいる大井川の水深50cmほどの川底にこれ以上ないほどにクッキリと映り、清流に慣れてるはずのMasaも思わず満面の笑みを浮かべる透明度なのだ。


大自然の懐へと飛び込んでゆく感じ

澄み切っている大井川

風と格闘しているうちに大井川は大きく左にカーブをとり、気が付くと僕らの視界から右岸沿いに走る車道のガードレール以外の人工物が一切消える。川幅は30mほどに広がるけど、そのぶん水深は浅くなり、コース取りが非常にシビアになる。スタートから写真を撮影する時以外はずっとMasaの後ろ50mほどにポジションを取り、彼にコース選択を任せて下っていく。何故ならスタートの際にMasaから『これまではアンタに先頭で漕いでもらってたけど、これからはオレが先に行くよ。待つことも急ぐこともないから楽だし、コースを読むのって面白いし、カワセミや魚を間近で見られるし。』と釘を刺されていたから(笑)。


逆風をモノともしないスムーズなパドリング

お手並み拝見って感じで彼のコース取りを観察していると全般に水深のない中でもまずコースを見誤ることなくスムーズにダウンリバーを続ける。逆光で前方が見づらいこともあって急に現れる隠れ岩を反射的に避ける場面も多いけど、迷うことなく一瞬で判断を下し、適切なパドルさばきでボトムをヒットさせることなく通過する。パドリングそのものよりも自然を体感することに主眼を置き、あまり深く考えずにテキトーにカヌーを進める僕とは違って、Masaはコース取りとか水の流れを読み取ることが一番楽しいらしいので、それはもう僕とは比較にならないほど頭を使って漕いでいる。『あぁ、オレがコイツに勝ってるのはパワーぐらいだなぁ。』そんな風に思うと嬉しい反面、ちょっと悔しい気もする。


逆光に輝く水面

Masaの読み通り、カーブを曲ると追い風に変わる

僕を振り返ることもなく自分の思うがままにカヌーを進めるMasa。
冒頭で彼が言ったように、登山道から外れることがマナー違反の山登りとは違ってカヌーのルート選びは自由なわけで、そこがこの遊びの面白さでもある。本流を一気に突撃するのか?それともカヌーを一旦下りてスカウティングしてみるか?はたまた最初から安全策を選んでライニングダウンするか?その選択権は先頭をゆくカヌーイストの特権であり義務である。カヌーでダウンリバーを楽しむことは、この選択を楽しむことが全てと言っても過言ではなく、逆にこれを楽しむことが出来る人...つまりは内心では単独行が一番楽しいと思ってる人こそカヌーという遊びのいわゆる“適性”を持った人なのだと思う。


さらにカーブをクリアし風が止むと静寂が僕らを包む

危機管理の観点、クルマの回送等のツーリングに伴う手間などを考えるとグループ行動をとる方が間違いなく“楽”だとは思う。でも「判断することが楽しい」遊びであるというカヌーの特性を考えた時、そのグループ内に依存と被依存の関係がないことがカヌーをグループで楽しむ上での絶対条件だと思うし、父と息子でありながらもフィールドに出たら対等の立場になるアウトドアズマンとしての僕とMasaがこれからの関係を築いていく上で、今回のダウンリバーでMasaをツアーリーダーの立場に置いたことはその布石になる良い機会だったように思うのだ。そしてその対等な立場こそがカヌー遊びの楽しさや安全性が1+1≧2となる絶対条件なのだと思う。


オンサイドに大きく傾けるMasa独特のパドリング

小さな瀬が連続する

カーブを曲がり切ると、微かな追い風が吹く静かな区間へと入る。風が止むとこれまで聞こえなかった瀬の音や鳥の声がまるでサラウンドのようにそこかしこから響き、大井川は相変わらず水量の少ない川独特の浅く緩やかな流れと隠れ岩が点在する0.5級の瀬がくり返し現れてそれなりに忙しいものの、広い河原のベージュ、柔らかく穏やかなカーブを描く美しい緑、そして抜けるような空の青...たった三色に塗りつぶされた光景の中をのんびりと漕ぐ気持ちよさったらない!

広々とした伸びやかな景色を堪能した後、カーブとその直前にある小さな瀬の連続が始まる。
でも今日は水量がミニマムなので瀬にはパワーがなく緊張感&恐怖感を感じるというよりも、痛快!の一言だ。


広々とした雰囲気が大井川の一番の魅力かもしれない

ついこの前まではカヌーを“操る”というよりも“乗せられてる”感じだったMasaなのに、中学に入ってから15cm以上も背が伸びてそれなりにパワーがついたのか、大きくリーンさせることで接水面積が極端に狭くなるHUNTERを力任せに振り回してる感じにも見え、後ろから観察している僕がヒヤヒヤするほど。信じられないけど今ではHUNTERが小さく見え、体格的にもそろそろPATHがちょうど良いかな?などと感じるほどである。
(6歳から本格的にパドリングを始めたMasa。今でも短い腕とキッズパドルを目一杯使って漕いでいた頃は、水面を捉えるためにオンサイドに大きく傾けて漕ぐしかなかった。身体が大人並みになった今でもその癖が抜けず、時折センターのOldTownロゴを水面下に沈めなるほどにリーンさせてのパドリングが彼のスタイルである。)


直角のカーブもさほどパワーを感じない


この水質はどうだ!

今のMasaにはHUNTERが小さく感じる

スタートの時は風の向きが変わるというMasaの見解に半信半疑だった僕。
『宮川や熊野川だったらオレも迷わず中止にしてたけどさ、地図見てたらここって屈曲が多いし谷が深いから、もしかして...って思ってさ。』
たった一回カーブを曲がるだけで風向きが変わるどころか微風になった現実にちょっと誇らしげなMasaである。しかもカヌーを進めるにつれて大井川の水質&透明度が目に見えて良くなり、南アルプスを源流とする川独特の青みがかった清冽な透明感に思わず見とれてしまう。


始まったばかりの紅葉がキラキラ輝く瀬をゆくMasa

川はあくまでも清く、空は青く澄んで、紅葉の始まりを迎えた深い山はカラフルで賑やかな印象。逆光に白く輝く瀬にどっしりと安定したスローモーションのようなスピードで入っていく我が息子のシルエットが実に美しく、瀬であることも忘れて写真撮影に没頭してしまうほどだ。


時にはライニングダウンが必要な箇所も

MINAMI-ALPS BLUE!南アルプス源流の川独特の青

次々に現れるカーブと痛快な瀬をいくつかクリアし、(残念ながら漕行可能な水深が確保できない瀬を2度だけライニングダウン)スタートから一時間足らずで正面に昭和橋が見えてくる。スタート時には取りあえずここまでと決めてたけど、Masaは迷うことなくその先へと進んでいく。
『今日は鵜山七曲を漕ぎに来たんだろ?行くしかないよなぁ、何たってコレだもん!』
橋の手前の目の覚めるような青さの淵をパドルで指して驚いたような表情でおどけながら、橋をくぐる。


今日のコースにある瀬は最大でも0.5級。しかし流速が速く痛快!

橋の左岸ぎりぎりにはログハウス風の喫茶店が建つ。その建物を眺めつつ、左からの強風を右オンサイドのスターン気味のスカーリングでかわしながら(まるで以心伝心のように僕の数秒後にMasaが同じ動きをするのが笑える...笑)さらに進むと正面にそれなりの瀬が現れる。地元カヤッカーが瀬遊びを楽しむ“オトリヤの瀬”のようだ。
逆光で非常に確認しづらいけど、瀬の向こうには規則的に並ぶテトラブロックのようなものが視認できる。水量が多いとテトラに流れが絡んで少しヤバい感じもあるけど、今日の状態ならもしテトラに引っ張られてもパドルでチョン!で済みそう(笑)。でも慎重派のMasaは何度もカヌーの上で立ち上がってスカウティングを繰り返し、本流に乗りつつもテトラへ一直線のラインを微妙に左に外して瀬に進入していく。


正面に昭和橋が見えてきた!

今日2度目のライニングダウン、これもまた楽し。

今日の状態でギリギリの1級程度の瀬。ただし波高は60〜70cmと高く、ほぼ空荷の僕のCAMPERですらボトムに10cmほど溜まるぐらいには水を喰らったので、20kgの石をバウに積んだMasaはかなり水浸しである。ビルジポンプで水を抜きながら大きく右に回り込む川をゆくと、不自然なほど堤防が高いことに気付く。堤防が高いせいで右岸にあるはずの石風呂という集落は全く見えず、林道としては不釣り合いなほど立派な高架橋だけが僕らの視界に入っている(実は右岸の金谷〜久野脇線は林道じゃなく国道だったんだけど)。


陽光を浴びて美しく輝く瀬

ここからはいよいよ鵜山七曲の区間で、堅い岩盤を浸食した川の流れが大きく蛇行する典型的な地形だけに、その上流側に位置するこの辺は増水時には水の流れが滞り一気に水位が上昇するために堤防が高く築かれているんだろうね、などと話しながら進む。石風呂集落を最後に大井川はゴールの笹間渡まで全く集落はなく、両岸に深く険しい山が迫る大自然の中へ入ってゆく。


清流には慣れているはずのMasaが満面の笑みで賞賛する青みがかったクリアウォーター

高架橋が見えなくなると、突然僕らは360°全く人工物の見えない自然のまっただ中に放り出された感じになり、さっきまで吹いていた風も完全に止んで、聞こえるのは大井川のせせらぎと僕らのパドルが立てる水音だけだ。左岸からせり出した木々は赤や黄色に色付いて、川は“南アルプスブルー”!実に美しい光景である。『やっと人間の痕跡が消えたね。ここで昼飯にしようよ。』ツアーリーダーMasaの命令で(笑)僕らはカヌーを右岸に寄せ、ランチタイムのために上陸し積み荷を解く。川面を渡る風も穏やかで山のスカイラインから降り注ぐ陽光がポカポカと暖かな素晴らしい河原...Masaの河原を見る目もなかなかのものだ。


七曲に入ってランチタイム

今日のランチは新製品のカップ石狩鍋

今日のランチは刈谷ハイウェイオアシスのコンビニで見つけた石狩鍋。何と“ちょっと高級カップ麺”で有名な十勝製麺の製品で、フリーズドライとレトルトの二種類の具材が一人前セットされててお湯を注ぐだけで食べられる。河原の石を積み上げて風防を作り、そこにPRIMUSを置いてお湯を沸かす。おにぎりを入れると雑炊にもなるんじゃないかと試してみたら、秋の河原で食べるとこれがなかなか美味しい。


人工物ナッシング!水質グッド!な鵜山七曲をゴキゲンに進む

 

少し風が出て来たので2艇のカヌーをV字に並べ、最近コーヒーの旨さが解ってきたMasaにレギュラーのコーヒーを落として煎れてやる。コーヒーを片手にのんびりと親子の会話を楽しんでいると、ボォォォ〜!突然至近距離で蒸気機関車の汽笛が鳴り響き、僕らは驚いて1mほど飛び上がる。全く人工物がないと思っていたけど、僕らがランチポイントに選んだ河原は地名駅手前のトンネル出口の真下だったのだ!(笑)でも確かに蒸気機関車は人工物には違いないけれど、煙を吐いて走る姿は不思議と周囲の自然の調和を乱すことはない...そう、深い渓谷に架かる吊り橋やお百姓さんが丹誠込めて作った棚田と同じように自然の法則に逆らっていない“自然さ”があるからなのかもしれない。


3ケ所目のライニングは突風に悩まされる

小さな落ち込みを慎重に下る


逆光で隠れ岩の発見が遅れ、大きくリーンさせて避けることもしばしば

石狩鍋とコーヒーで身体を暖めた後は、再びカヌーに荷物を積み込んで川へと漕ぎ出す。鵜山七曲の区間に入ってさらに透明度が増した大井川。前方をゆくMasaとHUNTERの影が川底の小石を飲み込むように進んで行く。七曲の名の通り川は目まぐるしく流れの向きを変え、ピーカンの今日は太陽を背にしたと思ったら突然正面に移動したりしてサングラスの脱着に忙しい。順光なら川底までくっきりと見える透明度でも逆光の時は水面に突き出た岩以外は何も見えず、水面下には視認できない隠れ岩が多数存在するのでちょっと怖い。直前に気付いて慌ててボトムを見せるほど大きくリーンさせて避ける局面もしばしばあり、シッティングポジションで漕いでるMasaは何度かケインシートから滑り落ちて尻餅をついていた(笑)。


波紋を断ち切る航跡

ゴールの笹間渡鉄橋へ!

ゴール直前まで続く手付かずの自然

今日三回目のライニングダウンを済ませ、小さな落ち込みを伴った瀬や思わず飛込んで潜水したくなるような深くてどこまでも透明な淵、そして危険さを全く感じない緩やかなカーブ...カナディアンカヌーの楽しさを全て網羅した素晴らしい川を僕らの2艇がふたり占め!人の営みの気配がないばかりか、他のカヌーも釣り師も川遊びの子供たちも誰ひとりいない川面を存分に楽しんで進むと、遥か前方に美しい鉄橋が見えてくる。ゴールの大井川鐵道・笹間渡鉄橋である。


鉄橋手前にゴール

突風を避けカヌーを窪地に避難させてると列車が

なんだかあっという間。漕ぎ出してまだ三時間にもならないというのにもうゴール?そんな少し残念な気持ちが大きいけど、少し前から再び吹き荒れる向かい風の不安から解放される安堵の気持ちもちょっとだけある(笑)12:49笹間渡鉄橋上流の河原にゴール。鉄橋下はテトラを並べた堰があって漕行不可能なので、ここから鉄橋の下流までライニングダウン。
ところが、鉄橋をくぐった途端、ビュー!という風切り音とともに強風が僕らを襲う。上流から下流へ吹き抜ける風は推定10m/s以上。河原には小さな竜巻まで起こって打ち上げられた木の枝が回りながら飛んで行く!岸辺に上げたカヌーがそんな風を受けてズズズズと河原を走り始めたので、慌ててカヌーを引きずって少し窪地になった場所に移動させ、風が弱まるのを待つ。



ヒョイっと難なくカヌーを担ぎ上げるMasa

しかし猛烈な風が彼を襲う(木の枝に注目!)

ここからダッちゃんを停める予定の進入路入口までの距離は400m以上(涙)。親父がFRのクルマを河原に乗り入れる勇気がないばかりに、哀れな息子はデカいカヌーを担いで歩かされることになるのである。大丈夫か?...ところが、そんな親父の心配をよそに、息子は軽々とカヌーを膝に載せ、両手でセンターヨークと向こう側のガンネルをがっちりと掴み、いとも簡単にヒョイっと肩に担いでさっさと歩き始めてしまう。表情は見えないけど、その足取りはあくまでも軽い。


河原の進入口までは400mの道のり(体を傾け風に耐えるMasa)

余裕のピースサイン

『ゴールデンウィークの頃は肩が薄かったからこのセンターヨークが肩のカーブに合わなくてさ、メチャメチャ痛かったんだよな、実は。でももう大丈夫。ぴったりフィットして全然平気だよ。』
強風をモノともせず...どころか時折僕を振り返って気遣いつつ(涙)、Masaが大きな石だらけの河原を進んで行く(感涙)。左後方からの猛烈な風に煽られて身体を斜めにして耐える息子と、そんな中自分のカヌーを担ぎながら片手放しで写真を撮ってる親父...はっきり言ってバカである(笑)。


強風と低水位のコンディションにもかかわらず、実に素晴らしいコース

 


 

カヌーを無事運び終えた後、風で飛ばされないように近くにある大きな石に固定し、僕らは歩いて大井川鉄道・川根温泉笹間渡駅へと向かう。レトロな雰囲気漂う駅舎で待つこと15分。僕にとっては懐かしい、そしてMasaにとっては新鮮な近鉄特急ビスタカーの車両が駅に入ってくる。
ビスタカーに乗り込んで懐かしいオレンジ色のシートに座ってトンネルの切れ間から大井川の眺めを楽しんでいると、すぐに塩郷駅に到着。僕らが2時間4分漕いで下った区間は列車でたった10分足らずなのである。


レトロな笹間渡駅の入口にて

ホームのミラーで記念撮影

駅を出て道路の向こうにある短い坂を登るとそこから対岸へは吊り橋が架けられている。長さ220.4m、高さ10.4mと大井川に架かる一番長い吊り橋・久野脇橋(通称・恋金橋)である。数百m上流の塩郷ダムを渡ることも出来るけど、やっぱり吊り橋でしょ!ってことなんだけど、高所恐怖症の親子は『オマエが先に渡れよ。』『いや、ここはやっぱり年長者から。』などと譲り合い(笑)。結局Masaが先陣を切って渡り始めるけど、強風で揺れる揺れる!(怖)


『うわぁ、ナニコレ!揺れる揺れる!』
『これぐらいの高さが一番怖いよなぁ。』

上:大井川鐵道の車内にて
下:塩郷で下りて吊り橋で対岸へ

『ヤバいって!この高さが一番怖いし!大峯の西の覗きなんて落ちても即死だから痛くないだろうけど、ここみたいに落ちたら痛い高さが一番苦手だぁ〜!』恐怖を忘れるためにやたら口数が多い僕ら。
『なんで魚飛渓の8mから飛び下りられるクセに、さほど高さの変わらんこの吊り橋でビビってんねん?』
僕が理解に苦しんで尋ねると...
『あ、いや、魚飛はウェット着てるし...。ホラ、スーパーマンもあの衣装着てないと飛べないだろ?あれと同じ。』
ワハハハ...ナルホド!(爆笑)


キャンプ場からスタート地点まではさらに1km

吊り橋を冷や汗をかきながら渡り切って、5分ほど歩いてくのわきキャンプ場に入り、そこから大井川のメチャ広い平原のような河原を1km近く歩いてダッちゃんを停めたスタートポイントに戻った僕らは、その場でスッポンポン着替えを済ませて、右岸沿いをゴール地点へ。
ここでカヌーと装備を全て積み込みを終えたタイミングで目の前の鉄橋を白い煙を盛大に上げながら蒸気機関車が渡ってゆく。
『何だか出来過ぎだよね、今日。』
Masaが呆れるように呟く。

そう、出来過ぎ。出艇出来るかどうかさえも怪しかった今朝の状況からすれば、今こうして満足感に浸りながら目の前を通り過ぎるSLを眺めているのは幸運の女神の仕業としか思えない出来過ぎなのである。


カヌーの積み込みを終えた瞬間、笹間渡の鉄橋をSLがゆく

楽しかったダウンリバー...でも僕にとっての楽しい時間は何もたった3時間の川下りだけではなく、家を出てから夜のドライブの間ずっと語り合い、ダブルベッドで枕を並べて眠り、そして新たな“相棒”と対等な立場で合議しながら事を決めることが出来たことが何より一番良い経験だったように思う。
これからますます体力が付き、考え方もどんどんと大人になっていくMasa。これからはもう今以上にパワフルになることはない僕。ふたりのこのパワーバランスは一週間ごと、いや一日ごとに変化してゆくけれど、そんな中でまたこうして2人でお互いをしっかり見つめて、語り合って過ごす時間を持てるといいな。そんな風に感じたのは僕だけではなく、Masaもまた同じだったんだろうと思える一日だった。

幸運の女神のプレゼント...実はこれだけではなく、帰り道に牧ノ原台地を走るダッちゃんの車窓からは、大井川の向こうに夕焼けに赤く染まる見事な富士山!
美しい景色に見送られ、僕らは深い満足感に包まれて大井川を後にしたのだった。


大井川からの最後のプレゼントは美しい富士山

 

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