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Photo Essay Vol.12

マキハンター

 

男の名は「マキハンター」
マキといって水野真紀や大黒麻季を言葉巧みに誘うわけではない。
もちろん田中真紀子やカルーセル麻紀では断じてない。
「薪」ハンターである。

緑の中を走り抜けてく、ウィロー(柳色?)のディスコ。
森を抜けるとフロントスクリーンには広々とした麦畑が広がる。畑の奥には平坦な雑木林。
「ん?」男の目は視界の隅に気になる物体を捉える。
免許証更新の適正検査で「わき見運転が多いB型」との結果にひとり爆笑していた男。町では道行く女性に、そして山では倒木に目を奪われる男。
男の名は「薪ハンター」。
速度を落とし、畑の奥、雑木林の縁にある気になる物体...伐採された木を凝視する。普段はLPレコードほどの速さでしか回らないこの男の頭も、この時ばかりは36倍速のCDのように高速回転でシークする。
「あれはクヌギか。」そう判断すると男はクルマを路肩に寄せてハザードランプをONにし畑を通って雑木林に走りよる。直径60cm長さ12mのクヌギが2本、40cm/10mのヤマザクラが3本...目で周囲の状況を把握しつつ、男の頭は再び最新MacG4並みのスピードで量や運び出す手段を計算する。
男の目が畑で農作業するおばあちゃんを捉える。おばあちゃんに向け歩み始める男。

「こんちは!エエ天気ですなぁ。」おばあちゃんは振り返り怪訝そうに男を見る。男は軽い微笑を浮かべさらに歩みを進める。「寒ぅない暑ぅないこの時期はエエなぁほんと。」「そうやなぁ、ええ季節やわ。」男は、畑をぐるりを見渡してさらに続ける。「おばあちゃん、あの木の倒れてる山はおばあちゃんとこの?」「いや、あれは角の●●さんとこの山やな。ほれ、あの屋根の青いうち。」「あれはなんで倒したんやろなぁ?」「台風で折れて小屋にこけてきたもんでらしいよ。」「ありがとうな、おばあちゃん!」

男は青い屋根の家に向かう。「こんにちは、さっき畑で○○さんのおばあちゃんに聞いたんやけど、山にこけてる木は何か使いなさるんです?」縁側に腰掛けてタバコを燻らせているお爺さんは、男を見上げ品定めするように上から下まで男を見る。「なんでや?」「実は僕も田舎の出で囲炉裏の火が懐かしゅうて、町で薪のストーブを使うとるんですわ。ところが町やとなかなか燃料がのぅて困ってますんや。」「ほぉ、今どき珍しいのぉ」「●●さんとこは風呂は薪ですやろ?」「そうや、そやけどあんな堅木は簡単に割れへんで。」「腕がないぶん道具は揃ってますんで(笑)」「別にあそこに置いといて腐らすだけやで、欲しかったら持ってき。」「ありがとう!ほな、近々邪魔しますわ。」

男にとって近々とはその日の夕方のことである。トラック、チェーンソー、ジャッキ...作業服に地元森林組合のロゴ入りキャップに身を包み、男は再び現れた。
「こんにちは、取りに来ました。」「早いのう。ワシも手伝うたろか?」草履を地下足袋に履き替えてお爺さんは男と共に雑木林へ。

「あんた、こんな関係の仕事しとるんか?」「いえいえ全然。」トラック一杯に玉切りしたクヌギを積込んで男は持参した魔法瓶のお茶をお爺さんに勧めながらタバコに火をつける。「助かりますわ、こんにいっぱい!」「いやいや邪魔臭いでワシも助かる。」「あそこにちょうどええ太さのんを残しときましたで、椎茸やってる在所の人に貰ぅてもうて下さい。」「そうか、そやけど今は木曽から買うとるで要らんで持ってきい。」「そんなら貰ぅてきますわ。」
男はこうして今日も薪を得る。

『営業の醍醐味は単にモノを売り込むことだけはない。営業を通じて人と触れあい新しい世界を広げることだ。』新入社員研修での講師の言葉が思い出される。

薪集めの醍醐味は単に薪を集めることだけではない。薪集めを通じて人と触れあい新しい世界を広げることだ。男の今の偽らざる心境である。

男の名は「薪ハンター」。70歳以上の友達がやけに多い、ちょっと変な男である。 

 

 

 
 

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