FLAME LAYOUT

Photo Essay Vol.11

そもそもの間違い

 

薪ストーブを導入したのが、そもそもの間違いだった。

「焚き火ってのはね、キャンプのテレビのようなもので...」
夕暮れ迫る誰もいない河原。手早く流木を集め、少量の焚付けに使い込まれたジッポで火を点す。
燃え上がる小さな焚き火に赤く照らされたふたりの顔。ペンドルトンのブランケットを肩に掛け 、目を潤ませてうっとりとした彼女の視線の先には、視線を火に落としたまま焚き火について語る “頼もしい彼氏”の姿...
「焚き火って素敵ですね...それに先輩も...」
彼は赤々と燃える炎を小枝で突つきながら小さく「う・ひ・ひ」と呟き、息を少し荒げた。

 

時は流れ、彼女は妻になり母になった。
そして家族のリビングに薪ストーブがやってきた。
「えーと、このクヌギ良く乾いてるわね。あと、そこのサクラも運んどいてね。この前のケヤキ、あれって煙が多いみたいね。そうそうエノキは火持ち悪いから、もう拾って来ないでね。」
薪置き場の薪を指差しながら翌日に焚く薪を選ぶ妻。
「は、はい」
“元・頼もしい彼氏”の夫は小さく返事して薪小屋から黙々と炉台のそばに置かれたバスケットに薪を運ぶ。

「あ〜だめだめ!そんなやり方じゃ、時間がかかっちゃうじゃない。寒いんだから早くしないと...。」
夫がジッポで点火しようとしていた、まさにその時、妻は夫を押し退けて薪ストーブの前にドッカリと腰を降ろす。ダンパーを開け灰取りドアを全開にして丸めた新聞紙にチャッカマンで点火。新聞が燃え尽きると再び丸めた新聞紙と小枝を少々、無造作にハースに放りこんで、その上に太いクヌギを置く。本で学んだ夫とは違って、経験に裏打ちされた一連の作業は流れるようにスムーズだ。再点火。ものの5分としないうちにハースはゴォ〜という轟音とともに炎に包まれる。
「先に煙突を暖めるのよ。わかる?それでね、ほら、煙突がチンチン鳴るでしょ?そしたらダンパー閉めるの。二次燃焼を2回転半ぐらい開けるのも忘れずにね。」
「う、うん」
“かつては頼もしかった”夫は早くも動き始めた温度計の赤い針を力なく見つめる。

 

漆黒の闇に包まれた河原に小さな炎が揺れる。仲間と焚き火を囲む。

「薪ストーブ、いいわよぉ!あったかくて安全で石油ストーブより簡単だし。私、毎日朝早く起きて薪ストーブ入れてるじゃない?普段なら夜の薪がまだ燃えてるから寒くはないんだけど、たまに消えそうになってる時なんて子供達が起きてくる前に部屋をあったかくしないとイケナイでしょ?誰かさんが『薪ストーブだけで冬を過ごすんだ』とか張切っちゃって石油ファンヒーター処分しちゃったもんだから大変なのよ。たまにこの人が早起きすると『火入れは神聖な儀式だ』とかトンチンカンこと言って、そのくせ何度も失敗したりするの。要するに下手なのよ、下手!男の人ってさぁ、確かに薪集めは上手なんだけど、焚き火は蘊蓄ばかり一流で実際はダメなのよね。」

薪ストーブ 。
夫はそのキャストアイアンの黒い箱(ブラックボックス)にいつまでもロマンを求め続け、
妻は暖房器具としての優れた機能性に共感しあくまで道具として使い倒す。
憧れと日常...家族の中心にある「火」を操る妻は一家の主(あるじ)となり、
家庭内での夫の地位は下がり続ける...。

薪ストーブを入れたのが、そもそもの間違いだった。夫は赤々と光る熾き火を小枝で突つきながら小さく「と・ほ・ほ」と呟き、深いため息をついた。

 

「妻たちの薪ストーブ」其の弐「aki編」
2001 JWS(Japan Wood burning Stove Society)

 

 

 

アンケートにお答えください!