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Photo Essay Vol.4


0歳児と楽しむカヌー

「カヌーを始めたいんだけど、子供がまだ小さくて・‥」こんな声をよく耳にします。ふたりだけの時はキャンプにも行ったけど、子供が生まれたらなんとなく億劫になってしまったというカップルも多いはずです。
実は、私もそんなひとりでした。ボーイスカウトから始めたアウトドアでしたが、息子や娘の誕生とともに一時中断する羽目に。アウトドア系の雑誌を山のように買い込んだり、使う当てのない道具を買ってはひとり眺めてほくそ笑んでみたり・・・。

禁止されると余計にやりたくなるのが人情ってもの。禁断症状も極まったある日、まだ言葉も理解できない0歳の息子の前に座って、「俺の息子に生まれたオマエが悪いんだから、一緒にキャンプに行くゾ!」と言い聞かせ、首の据わったばかりの彼を連れて、いざフィールドヘ。
 テーブルに引っかけて使う子供いすをカヌーのシートに無理やりくっつけて漕ぎ出したものの、5分としないうちに泣き出す始末。だっこをせがむ彼を背負って、漕ぐ道程の遠かったこと遠かったこと・・・。結果は散々。普段の半分も楽しめない上に、倍疲れて逃げるように帰って来たのでした。「アウトドアは子連れに優しくない。」という教訓だけを残して。
もう二度と行くもんか!心に誓った私でしたが、次の週にも、またその次の週にも、やっぱり息子を背負って川を下る“パパ”パドラーの姿がありました。

そんなある日、子連れカヌーへの印象を一変させる出来事がありました。背中の息子が「あ−、あ一」と興奮した声を発してジタバタし始めたのでふと見上げると、すぐそばの岸辺の枝にコバルトブルーの鳥が。息子がカワセミを見つけたのでした。そのあとも、アオサギやカワウ、シギにセキレイ‥・息子は次々に鳥を発見します。「うん、これは悪くないゾ!」この日以来、私は子連れだからこそ感じることのできるアウトドアの楽しみを見いだし始めました。「あーあー」が「ちゅんちゅん」に、そして「せみせみ」から「かわせみ」へと成長してゆく息子と楽しい時間を共有し、彼の成長を肌で感じる喜び。これは何物にも代え難いと今も感じています。

小さい子供をもつ親ならみんな覚えがあると思いますが、それまで馬鹿にしていたTVアニメを夢中で見ている自分に気づいたり、ありふれた近所の公園が、とても魅力的に感じたり、空を流れる雲が、怪獣に見えたり...大人になって忘れてしまった少年の頃の感覚が蘇ったような感じ。そんな気分をもっと味わいたいなら、子連れでアウトドアに出掛けましょう!きっとこれまでとは違う何かを発見できるはずです。
とはいえ、息子が4歳、娘が2歳になった今はホントに楽になりましたが、キャンプ道具のチュックリストに「粉ミルク」だの「哺乳瓶」だの書いてあったころは本当に大変でした。0歳児とアウトドアを楽しむための情報は皆無に等しく、また、ウェアをはじめ子供用、特に乳幼児のものは種類も少なく、造りのかなりイイ加減なものが多くて試行錯誤の連続でした。そんな私の経験やアイデアが(3年前の私のように)子供をかかえてアウトドア断ちを強いられている方々のお役に立てばと思い、筆を執らせて項いた次第です。
(ただ、これはあくまでも私なりの経験ですので、専門家の方にはお叱りを受けることもあるかも知れません。そこらへんはご理解ください。)

 

心構え、準備

「親が楽しけりゃ、子供も楽しい(・‥だろう)」これがわが家のモットーです。
子供のためにとか、家庭サービスでとか、ましてや遊びに教育的な効果を期待したりすると、たぶん子供は楽しくないんじゃないか、そう思います。逆に子供が楽しけりゃ、親も楽しかったりするワケで、肝心なのは「共有すること」じゃないかと思う。
思い起こせば、私の場合、小学校に入ると親より友達と遊ぶほうが面白く感じたし、高学年になったら、親といることさえ「カッコ悪い」気がしたのを覚えています。となると、5、6年間なんですよね、子供と遊べるのって。だからこそ、私は0歳から遊んでやろうと考えたわけです。たとえ、子供達が迷惑に感じてても。親の特権ですもの。

ただ、子供は体力や判断力が劣っているので手加減というか、それなりのフォローは必要ですけど。それから、せっかくやるからには、子供が楽しめるように工夫も必要です。わが家では、生後4カ月からカヌーに乗せるのと同時にスイミングクラブに入れました。怖々カヌーに乗ってるより、水遊びの楽しさを知ってる方が楽しいだろうし、もちろん安全だろうと考えたからです。4カ月ぐらいだと、まだ羊水の記憶が残ってるのかそれはど水を怖がりませんでした。目をバッチリ見開いて、手足をバタバタ泳いでました。沈した時、泣きわめいて抱きつかれるより、キョトンとした顔で待っててくれてる方がレスキューもやり易いので、これは正解でした。

 

道具選び

まずは、カヌー。子連れの場合、オムツを始め着替えやおもちゃなど予想外に大荷物になるので長さ16フート以上のカナディアンカヌーが便利です。0才児乗せてレースやエクスペディションする人は少ないでしょうから、ファミリーツアーに適した、フラットボトム(平底)を選ぶと良いと思います。このタイプは穏やかな水面ではグラグラ横揺れが少なくて、初めて乗った子供も怖がりません。ただ、限界をこえて傾くと思いのほか、沈しやすいので注意が必要です。私の場合、最初は小回りがきき軽い(けど真っすぐ進まない、つまり練習になる)14フィートを買ったのですが、家族が2人から4人になり、七福神の宝船ならぬ子宝船状態になったので、16フィートを買い足す結果になりました。いずれにせよ、カヌー専門店の店員さんに聞くのが一番でしょうね。

次に必要なのがパドル、そしてP・F・D(Personal Floatation Device/ライフジャケット)とレスキュー用品です。パドルは子供の分も買ってやると、とても喜びます。(トイレ用スコップとしても重宝します)P・F・Dは自分も子供も体に合ったものを必ず着用します。体重5kgぐらいからえらべますが、股ベルト付きで襟にも浮力体が追加されたものを選びましょう。股ベルトがないと沈した際にスッポリ脱げる恐れがあるし、背中とおなかの浮力体が加減されていたり、襟に追加されていたりして、仰向けに浮かぶ工夫のあるものだとより安全です。

安全のためばかりでなく、沈したあと水を怖がらない子供ならそのまま浮かべておいて落ち着いてレスキューできますし、丈夫なベルトの付いたタイプなら子供を拾いあげる作業がとても楽になるので、P・F・Dは必需品です。無理やり着せようとしてもたぶんいやがるので、家でも遊びの中で着る練習をしておくこと。ただ、P.F.Dを着て浮かぶのはとても気持ちのイイことなので、一度味をしめたら自分から着るようになります。ちなみに、うちの娘はツーリング中にカヌーから飛び込んで、カヌーと並んで流れる遊びに夢中です。「これを着ればたのしい事が待っている。」そんな期待を抱かせること。言葉がわかるようになれば、必要性をちゃんと説明すること。これが大切だと思います。要はクルマのチャイルドシートと同じですね。

P.F.Dの下には、ウェットスーツがベスト。でも子供用はオーダーメイドしかないし、すぐ体が大きくなるので2〜3カ月ごとに買い替えることが必要。そして、あの圧迫感は子供には無理。そこで、サーフスーツとよばれる水着素材のウェアを着せます。海外通販なら身長60cm(新生児!)からあり、即乾性に優れ、袖がありパンツも膝まであるので春や秋は低温から、夏は紫外線から子供のからだを守ってくれます。
 水温、気温に合わせ、ポリプロピレンなど即乾性のある下着(海外通販で80cmから)、フリース、ゥィンドブレーカー等を重ね着させます。足元はネオプレン製のアクアシューズ(同13cm〜)TEVAのサンダル(11,5cm〜)、ニ−ブーツ(12cm〜)を季節によって使い分けると良いでしょう。

もちろん帽子も必要。ツバが広いと視界を遮るからか、0歳児は帽子をいやがるので通気性の良いキャップを後ろ向きにかぶらせると良いと思います。総じて、5歳以下のアウトドアウェアは国内製品には少ないので、海外モノに頼らざるを得ません。海外では需要があるんでしょうか、品揃えも良く、大人の半額ぐらいのものがはとんど。お買い得です。(メイル・オーダーならランズエンド・キッズ、アフター・ザ・ストーク、バイオボトムス、REIなどがイイ!)

あと、あると便利なのがエアマット。(ポンプでエアを入れるタイプ)子供が遊び疲れてカヌーで居眠りを始めたら、さっとボトムに敷いて寝かせられます。又、沈した際カヌーを起こす間子供を乗せておけるし、一時的な浮力体としても利用できます60cmX200cmぐらいの大きさなら16フィートのカヌーにぴったりです
それから忘れてならないのが、子供用のカヌーシート(いす)ですが、市販のものは種類が少なくベラボウに値段が高いので、私の場合は2人掛けのベンチを自作して使用しています。

最後に大人のウェアですが、真夏の一時期を除き、ウェットスーツが必需品です。この間実験したところ、沈した場合、大人だけの時に比べ子供を2人達れている時は3〜4倍長時間水中にいなければなりませんでした。子連れのときはウェットスーツ!自分だけじゃなく、守ってやらなきゃならない子供達と一緒の時は万全を期したいものです。

どこで遊ぶのか

流れもなく、一見安全そうに見える湖。実は子連れカヌーには危険な場所です。一部の沼を除き、ダム湖や山上湖は突然強風が吹くことがあり、夏でも水温は低いままなので沈すれば(カヌーは沈するのりものです)たちまち低体温症になってしまいます。子供は体重の割に体の表面積が大きいので大人よりその危険は大きくなります。逆に一見危険に見える川ですが、初夏から晩秋にかけては水温も高く激流に行くのでなければ比較的安全です。ただ、初めての川は充分な下調べとその川を熟知したツアーガイドのようなベテランの同行者が必要。ソロ(一人乗り)で充分練習して、実力の50%ぐらいまでで下れるようになった時、初めて子供を乗せるべきでしょう。私は子供を乗せる場合、川沿いの道を一度クルマで走り、道路から見える範囲ではありますが危険箇所をチェックするよう心掛けています。

キャンプ

わが家はカヌーツーリングのためのキャンプなので、キャンプ場は利用したことがありません。いっも河原です。騒ごうが、ご飯をこぼそうが、服を汚そうが、なにをしても叱られる事がないので、子供達にとって一番のお気に入りの場所です。せっかくの楽しいキャンプも子供のことで隣のキャンパーを気遣ってたのではつまらないし、子供達もかわいそう。誰もいない美しい玉砂利の広がる河原を独占して自由にやりましょう。
 ただ、キャンプ場のようにルールや叱ってくれる管理人さんもいないし、決められたトイレもゴミ箱もないので自分たちの責任で良心をもって楽しむことが大切。

管理されないかわりに援助もないので万が一を常に想定して行動しないと、大変なことになります。具体的に言うとキャンプ予定地の最寄りの小児科や救急病院をリストアップしておくとか、悪天候や増水に備えて、カヌーでしか入れない河原は避け、多少条件が悪くても道路が通じている河原を選ぶとか・・・。
キャンプだけなら、体温調整にさえ気を配ってやれば首の据わったばかりの生後数ケ月からOK。親も子供も十分楽しめます。1歳半にもなれば流木や石を拾ってきたり、水遊びをしたりと、一人で遊べるので目を離さなければ大人もゆっくりできます。夜になれば、小さな焚き火を囲んでクレイジークリークの座椅子(子供は地べたが1番!大人はフルサイズのものを、子供はカヌー用の小ぶりのものを使うとよい。)に座ってボーツとしていれば昼間の疲れもあって子供たちはウトウト・・・。大人たちはバッグの底からバーボンやワインを出してきてチビリチビリ・・・。アー、極楽 極楽。
4歳になった息子は、そろそろ両親といくカヌー&キャンプ以外に友達との「ウルトラマン・ティガごっこ」にも興味を示してきていて、もしかしたらあと数年で一緒に行ってくれなくなるかもしれません。(ただ、今年、下手くそながら漕ぐことを覚えてカヌーの先端でバシヤバシヤやっているので、あと数年で彼専用のカヌーを買うことになるかもしれませんが・・・。)

2歳になる娘はカヌーに乗っているより飛び込みがお好みのようで、P.F.Dを着てキャッキャいいながらプカプカと瀬を下っていきます。自分のためだけに始めた「子連れカヌー」は妻を巻き込み、子供達を巻き込んで、今や「ライフワーク」ならぬ「ファミリーワーク(?)」になりつつあります.・、ときにはひとリで大きな瀬を攻めたり、男同士でロングツーリングにでかけたりと色々な楽しみ方をしていますが、すばらしい景色や珍しい動物、そして満天の星空を眺めながら思います。「こんどは、アイツらも連れてきてやろう...。」と。

 

[Field Gear+Youchien Mama] 1997 akihikom 

  


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